全6回連載 宮口孝夫氏によるコラム|第2回「ベースを始めるきっかけとエレキベースの進化」

全6回連載 宮口孝夫氏によるコラム|第2回「ベースを始めるきっかけとエレキベースの進化」

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「ベースを始めるきっかけとエレキベースの進化」




バンドを組む時、ベーシストはどうやって決まっていると思いますか?

ベースを弾きたいからバンドを組む、という人は1975年にベーシストのポジションを変えたスーパープレイヤーが現れるまで殆どいないと思います。
それ以降でもあまりいませんが、、

でも日本で最初のバンドブームがあった1960年代からベーシストのいないバンドはありません。では、なぜベーシストはいるのか?

当時も今も、バンドのスターにはギターリストが圧倒的に多く、ギターを弾きたい人が友達を集めてバンドを作ります。その時ギターを弾ける人が集まってバンドを始めようとすると、ギターリストだけではバンドは成り立ちませんし、当然その中で上手い下手が出てきます。

そうなると一番上手い人がギターを弾き、その他の人がベーシスト、ドラマーとなってバンドが始まるということは珍しくありませんでした。

皆さんが知っている高中正義氏もギターリストでしたが、プロの最初のバンドではベーシストを担当しています。



高中の後は確か柳ジョージもそのバンドでベースを弾いていたと記憶しています。



もう一つはギターを弾ける人が、楽器の弾けない中の良い友達を集めてバンドを作る場合です。

その時ギターより弦が2本少ないベースは簡単に出来そうな感じがしますし、ドラムは適当に叩くだけに見えるので、楽器の弾けない友人にベース、ドラム、と振り分けます。

ウソのような話ですが多くのバンドがこのような感じで本当はバンドの核であるベーシストとドラマーが決まります。

ベーシストはバンドで重要なポジションなのですが、パッと見地味な存在です。

お恥ずかしい話ですが、私も最初に日本にバンドブームをつくったベンチャーズのベーシストの名前を憶えていません。

もう一つのビートルズのベーシストは非常に有名なポールマッカートニーです。



ベーシストとしても革新的な奏法を創り出すほど素晴らしいプレーヤーなのですが、彼の創る曲はそれ以上に素晴らしく、ベーシストをつくるより、曲を弾きたい多くのギターリストをつくってしまいました。

ちなみに、ポールがベースを弾くようになったきっかけは、先ほど書いたベーシストが生まれた理由の逆で、最初のビートルズのベーシストがドイツで演奏していた時、突然辞めたのでギターリスト3人の中で一番上手かったポールが急遽ベースを弾いたのが始まりです。
今でもビートルズの中で一番上手いのはポールだと思いますし、レコーディングではかなり弾いています。以上、余談でした。


ベーシストはポール以外にもROCKではジャック・ブルース、ティムボガートetc…JAZZではスタンリークラークなど有名な方が出てきたのですが、1975年にジャコパウトリウスが出てくるまで、バンドの顔までにはなりませんでした。彼以降ジャズフュージョンのバンドではベーシストがメインになるバンドも増え、ロックバンドでもビリーシーンという客を呼べるプレーヤーも出ています。

海外ではギターが下手だからベース、というのはあまりないのですが、ベーシストが楽器販売にどういう風にかかわってきたのかを書いてみたいと思います。

日本でバンドブームのきっかけになったベンチャーズはモズライト、ビートルズはヘフナー、リッケンバッカーとエレキベースの王道、FENDERではありませんでした。

そのためギターと同じでFENDERがエレキベースの代名詞になるのは1970年代以降になります。
ちなみにGIBSONのベースは音の関係か、それほど需要がありませんでした。日本でベース製造初期のメーカーはギターと同じでヤマハ、グヤトーン、グレコ、エルク、テスコでフェンダー系ベースではなく、ヘフナーヴァイオリンベースもどきやオリジナルデザインのものが作られていました。ギターと同じく当時の斬新なデザインのベースは今でも人気のあるものがあり、当然フルオリジナルでなければだめですが高額で取引されているものもあります。




ほぼフェンダー一人勝ち状態のエレキベース界に最初に登場した革新的なメーカーは、1969年に起業したアレンビックです。フルオーダー、ラミネイトスルーネック、ノイズキャンセラー、アクティブ回路などそれまでに無かったベースサウンドを創り出し、スタンリークラークなどレジェンドベーシストのメイン楽器になりました。日本のメーカーにも多大な影響を与え、グレコのGOシリーズ、アリアSBシリーズが出来ました。

また、最初のハイエンドのベースとしてそれなりに価値のあるものを作れば販売価格がフェンダーの3倍以上でも需要があることを証明し、それ以降のハイエンドブランドの指針となりました。

80年代になるとアクティブ回路ベース全盛期になります。アクティブ回路とは、それまでのコイルと磁石で電気信号を作り、普通のボリュームにコンデンサーをかませて音質を創るフェンダー系ハイインピーダンスパッシブピックアップに対して、ローインピーダンスピックアップを電池を使ったプリアンプでブーストする回路です。ローインピーダンスなので、パッシブに比べてノイズが少なく、プリアンプを使って出来る電気信号が根本的に違うので、楽器本体で多様な音作りが可能になりました。

また、この時期スタジオミュージシャンがバンドベーシストより市民権を得るようになり、レコーディングで音作りしやすいアクティブベースが一段と使われるようになります。

本来の意味は少し違いますが、パッシブがアナログ、アクティブがデジタルと考えると理解しやすいかと思います。

アクティブベースの筆頭メーカーがスペクターです。



少し小ぶりで操作のしやすそうなデザインのNS-2は、50万円弱という販売価格にもかかわらず日本でもブームを作ります。使われていたピックアップEMGは一段とメジャーになります。NS-2をデザインしたのは、後にヘッドレスベースで革命を起こすネッド・スタインバーガーでした。

これに影響を受け、日本で出来たメーカーがチューンです。チューンもまた、日本の楽器としては当時一番安い機種が13万円という高額でも、爆発的に売れました。色んなメーカーが小ぶりでスマートなベースを作り出したのはその影響があります。

ベースが高額でもそれなりに売れるという事を、アレンビックに続いてスペクターも証明したのです。

私的意見になりますが、やはりバンドの中では地味な存在のベーシストの楽器に対するこだわりが、楽器の進化と高くても購入する販売価格に表れていると思っています。


次に起こるヘッドレスベースブームでも40万、50万円するスタインバーガー、ステイタスが当たり前のように売れていきます。現在ヘッドレスベースはそれほど売れていないのですが、この2社の当時のUSAものは中古相場で結構高額で取引されています。

この後登場する革新的なベースが1979年に起業したケンスミスが作る多弦ベースです。
なぜ彼が多弦ベースを作ったのか。
実はケンスミスは当時ニューヨークでは結構売れっ子のスタジオミュージシャンだったからです。80年代以降デジタル電子楽器の驚異的な進歩により、音楽で使う音域がそれまでの常識を超えた広さになったため、彼がミュージシャンとして仕事をするとき、従来の4弦ベースでは補えない低域と高域が必要とされていることに気付いたからだと、私がケンスミス本人と話した時に言っていました。

5弦、6弦ベースはほぼアクティブ回路ベースです。パッシブベースでも5弦ベースはあるのですが、5弦のローサウンドはパッシブPUでは拾いきれない音域になっていると思われます。弦振動をプリアンプで電気信号に変えるアクティブPUの方が音作りがしやすくなります。ケンスミス、フォデラなどもアクティブ回路ベースです。この2社も販売価格が60万、80万円するハイエンドメーカーです。生産数も少ないので、中古になっても新品価格まではいかないですがかなり高額で取引されています。ベースはギターに比べて生産数量が少ないので、ベーシストに多いこだわりの強い人は値段が高くても買います。それが一種のステータスのような気がします。

ただこの2社はUSAでない廉価バージョンもあるので、買取等は気を付けて下さい。偽物もあります。


現在日本ではあまりメジャーではないヨーロッパの工房のベースを弾いている方が増えてきています。当然70万、80万円は当たり前なのですが、正規の代理店がないものは修理等で問題も発生しやすいので、額面通りに査定するのはリスクがあるので気を付けましょう。

4弦アクティブベースにもサドスキーなどハイエンドの人気ブランドがあります。



アクティブベースを褒めているようになりましたが、フェンダーは何時の時代も王道です。
タッチニュアンスで表現を変えられるパッシブベースは基本です。

日本のメーカーも、ベースはそこそこ高額なものは売れています。
チューン、ESP、ムーンなどは量産メーカーに近いコンポメーカーなのですが、それなりのブランド価値は持っています。ただ、あまり高く査定するとケガをすると思います。

フェルナンデス、アリアは今や論外になりつつありますが、ドラゴンフライ、エキゾチックなどミュージシャンが使ってメジャーになったメーカーなど、ベースブランドは今もなかなか元気なところが出てきています。私的ですが、商売としてはギターよりも可能性があるような気がしております。

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質屋業報などで楽器の解説を行っている、楽器専門バイヤーの宮口孝夫氏によるコラム全6連載です。
第2回目は、ベースを始めるきっかけと、エレキベースの進化について解説していただきました。

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