全6回連載 宮口孝夫氏によるコラム|第3回 「フォークギターは“モテアイテム”として広まった」

全6回連載 宮口孝夫氏によるコラム|第3回 「フォークギターは“モテアイテム”として広まった」

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※前回までの記事はこちら
第一回|「国産エレキギターの歴史と価値」       
第二回|「ベースを始めるきっかけとエレキベースの進化」




第三回|「フォークギターは“モテアイテム”として広まった」


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宮口 孝夫

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ギターの歴史

今回はアコースティックギターのお話です。
最初に少しだけギターの歴史を紹介しようと思います。
紀元前に現在の民族楽器みたいな弦楽器はあったようですが、音楽を表現するために扱われだしたのは、ルネッサンス期に現れたルネサンスギター、バロック音楽期に現れたリュートがギターの基になっていると言われていますが、どちらも弦が張ってある以外は奏法も構造も現代のギターとはかなり異なります。


現代のようなギターは、19世紀にスペインでフラメンコ、クラシックギターが製作されました。今も有名なギター工房はスペインに多くあります。

フォークギターは1833年にドイツ出身のフレデリック・マーチンがニューヨークで製作したのが最初だと言われています、現在マーチン社です。

日本でギターを弾きながら歌を唄うスタイルが一般に広まっていったのは1960年代中頃、アメリカで流行りだしていたフォークソングを、少し裕福でアメリカ文化に触れやすい環境にあった、今で言う意識高い系の大学生が学校祭で演奏し始めたところから広まっていったと思われますが、私は加山雄三氏が映画の中でアコースティックギターを弾きながら歌うシーンが必ずあったのでそれもかなり影響したのではないかと思っています。


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アメリカに先年ノーベル文学賞をもらったボブ・ディランが現れ、ギターの弾き語りが最先端の音楽表現のひとつとなっていき、日本にも影響を受けたミュージシャンが多く現れます。当時ベトナム戦争に対する反戦歌、社会に対するプロテストソングとしてフォークソングは学生や若い社会人に影響を与えていきます。そのため、ギター弾き語りは今で言うトレンドアイテムのトップギアーになっていき、モテたい男子はギターを弾き始めます。それと共に、日本でも本格的なフォークギターの製作が始まります。

1966年にヤマハがFGシリーズの製作を始め、中小のギターメーカーが設立されます。この頃のギターをジャパンヴィンテージと称し、価値があるように位置付ける方もいますが、ほとんどの物がただの古い中古ギターです。有名なヤマハFG180赤ラベルも、「ゆず」が弾くまでは一部のマニア以外には見向きもされないギターでした。構造も合板ですし、個人的感想ですがなぜか大きな音で鳴ること以外、取り得の無いギターだと思っています。

ゆずも有名になってからはあまり弾いていないと思います。古いだけで価値があると査定するのは危険ですので気をつけてください。高いのはFG180を含め、2~3種類だけです。


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この頃のメーカーで現在存続しているのはヤマハ、タカミネだけです。モーリスは1972年まで存在しません。鈴木もヴァイオリンだけになっていますが、本当に古い(ひょっとしたら戦前)鈴木政吉氏製作ギターがあります。状態が良ければ高値が付く可能性はあります。

フォークソングブームも70年安保闘争、ベトナム戦争終結とともにひと段落します。余談ですが、この頃のプロテストフォークソングの第一人者岡林信康氏のバックバンドが大瀧詠一、細野晴臣、松本隆、鈴木茂のハッピーエンドでした。意識高い系カレッジフォークの生き残りが森山良子さんです。海外メーカーのギターはまだまだ憧れだけでした。

70年代に入ると、反戦とかに関係のない演歌に近いようなフォークソングがブームになっていきます。この頃画期的なCMのキャッチコピー“モーリス持てばスーパースターも夢じゃない”で第二期フォークギターブームが起こり、モーリス、キャッツアイ、Kヤイリ、Sヤイリなど現代もあるギターメーカーが現れます。

創世記のギターメーカーに比べ製造技術も飛躍的に向上していき、1970年代中、後期の各メーカーの高級機種は状態が良ければ当時の販売価格以上で取引されています。それは生産数が少ないからです。70年代はギター購入に20~30万円かけるのであれば、ほとんどの方がマーチン、ギブソンを購入し、国産ギターが買われる事は無かったからだと思います。

70年代中期にはオベーションがエレアコという新しいギターとして登場します。画期的な出来事で、多くのメーカーがエレアコを作り出しますが、ほとんどが失敗していきます。

エレアコに関して、古いギターはあまり価値がありません。

なぜならエレアコはアンプで音を出すのが大前提なので、現代の方が電気系のP.Uイコライザーが進歩していて良い音がするからです。査定する際には頭に入れておかれた方が良いと思います。


70年代後期頃からクレジット会社の審査基準が少し変わり、学生やアルバイトでも高額な楽器を購入出来るようになり、マーチン、ギブソンが一般的になっていきます。
ただ、75~80年代前半のギブソンは中古市場であまり人気が無いのでヴィンテージとして高く査定するのは危険です。これも憶えておいてください。

マーチンは日本において別格のD-45を除いて人気があるのはD-28だけです。
新品価格が高いからとその他のモデルを新品価格ベースで査定するのはおすすめしません。これは日本だけの傾向なのです。D-28はもともとアメリカの国民的音楽であるカントリー、ブルーグラス用に開発されたギターなので、アメリカで大ヒットします。

そのためマーチンの代表機種として紹介されますが、実際は低音が大きく鳴り、高音は軽い鳴りで弦の音量バランスがあまり良くないギターです。

ポピュラー音楽にはバランスの良いD-18、D-35の方が向いているのですが、日本人はD-28のブランド力で購入する傾向があるからです。

マーチンは28と憶えてください。90年代中期以降になるとサンタクルス、グレーベン、ロイノーブルなど、マーチンサウンドをベースにしたハイエンドメーカーが日本にも紹介されるようになり、高額ギターの選択肢が広がりますが、マーチン、ギブソンにはなりえませんでした。

輸入ギターの変わったのは、2000年以降出てきたラリビー、テーラーの高音キラキラギターです。海外ミュージシャンが多く使用するようになり、日本でもトップブランドの一つになっていきます。現在日本のトップセールスはテーラーになっています。






中古市場の現状

ここまでは新品ギターの売れ筋傾向を書いてきましたが、中古市場にも反映されています。

ただ中古市場においてアコースティックギターが高額になるワードが一つあります。ハカランダというボディ材です。1965年にワシントン条約で伐採禁止となり、それ以降は各メーカーの在庫分だけの少ない製造になり、希少価値が出ています。

基本的にはローズウッドですが、南米ブラジルあたりに多くあったもので、音が繊細で各弦の音の輪郭がハッキリ聞こえると言われています。

ただマーチンがハカランダを使用したのは輸送コストが安かっただけで、音の事はそれほど考えていなかったとも言われています。ハカランダ材と普通のローズウッドでは査定金額が倍以上変わってきます。クラシックギターはフォークギターほどハカランダの中古査定は高くないのですが、新品の販売価格はやはり普通のローズウッドボディの倍しています。

現代はアコースティックギターサウンドの多様性により、マーチン、ギブソン以外のテーラー、コリングスなど色んなギターが選べる時代になっていますが、マーチン、ギブソンが王道なのは変わっていません。現在日本はギブソンが人気があります。

輸入高級ギターの事ばかりを書いてきましたが、国産ギターはヤマハ、モーリス、Kヤイリが今でもトップブランドで、中古になるとKヤイリが人気です。

また、エレキギターの時にも書きましたがアコースティックギターも小さな個人工房のギターが増えています。ギターの販売価格は手間賃によるものなので、ボディ材、塗料、接着剤、力木の配置によって音質を無限に変えることも出来るので、個人工房のギターは非常に高いです。


ここからは私の個人的意見だと思って読んでください。

日本のギター製作者は工芸的な要素は素晴らしいですが、音の事はどこまで判っているのかな、という疑問です。平たく言えばちゃんとギターを弾ける人が造っているのか、という事です。

エレキギターよりアコースティックギターの方がよりシビアになると思いますし、販売価格通りの査定は避けた方がベターだと思います。

エレアコはオベーション、タカミネが今でも主流です。
クラシックギターは需要が非常に減りつつあります。高級ギターはスペイン製のホセラミネス、コンデマルチネス等今でも色々ありますし、新品販売価格が100万円以上は腐るほどあります。ただ中古になると新品価格の半額以下でないと売れないのが本音で、5万円以下の国産モデルやアジア製のギターは使用感があれば査定は0円だと思っていただいた方が良いと思います。


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先にも書きましたが、私は楽器としての可能性はエレキよりアコギの方があると思っているのですが、コロナ禍の今、楽器の社会的価値が日本でどうなっていくのか注目しています。




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質屋業報などで楽器の解説を行っている、楽器専門バイヤーの宮口孝夫氏によるコラム全6連載です。
第3回目は、ギターの歴史と中古市場の現状や、査定の注意点等を解説していただきました。

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